大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)34号・昭52年(行ウ)11号・昭52年(行ウ)31号 判決
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【判旨】
三 本件代執行が違法であつたかどうかについて
1 原告らは、本件代執行は行政代執行法二条に定める、義務者が義務を履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき、との要件を欠くので違法である旨主張する。まず右主張について検討すると、右要件、特に後段の要件の存否についての判断は一応代執行を行なおうとする行政庁の裁量に委ねられていると解するのが相当である。しかし行政庁の右裁量権は無制約なものではなく、代執行に係る義務を課する法令又はその義務を課する行政処分の根拠となる法令の趣旨、目的をはなれた恣意的見地から当該行政庁が代執行の実施を決定し、これを実行した場合は、裁量権の逸脱又は濫用となり、右代執行は違法になると解すべきである。
ところで都市公園法二条の規定及び弁論の全趣旨によれば、都市公園設置の目的は、公共空地を確保し、これに同条二項各号列挙の園路及び広場、植栽、花壇等の修景施設、休憩所、ベンチ等の休養施設、或はぶらんこ、すべり台、砂場等の遊戯施設等を設置して、これを広く一般市民に開放してその利用に供し、或は児童に遊戯の場を提供し、もつて市民児童の健康の増進と健全な発育及び文化生活の向上に寄与することにあることは明らかであり、右都市公園に属する本件公園設置の目的も又右同趣旨に出るものと認めるべきことはいうまでもない(成立に争いのない乙第一号証、大阪市公園条例参照)。そして、同法も右のような都市公園の健全な発達を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする(同法一条)のであるから、同法に基づき、本件公園につき監督処分権を有する市長が、右監督処分権限を行使し、これを実現するための行政代執行を実施するに当つての裁量も、前記説示のとおり、本件公園の右設置目的及び同法の趣旨を逸脱してはならないことになるのである。<中略>
(1) 原告らは、被告において釜ケ崎の日雇労働者に対する福祉対策を十分に行えば、本件工作物は存在意義を失い、撤去されるに至るのであるから、本件工作物除却につき他に手段がなかつたわけではない旨の主張をする。
前記認定のとおり釜ケ崎の日雇労働者が本件代執行前後を通じて直面している雇用問題、病人問題等は深刻であり、これを放置することが福祉に反することは明らかである。しかし右問題に対する国又は被告ら地方公共団体の施策は、他の公共の福祉の面から要請される施策との調整、一方では財政との兼合い等国政又は市政全般の事情に照らしてなされる根拠法令の制度、予算の決定及びその執行等法定の手続を経て行われるべきものであつて、原告らが右問題に直接利害関係を有する者であるからといつて、一般市民児童に開放されるべき本件公園の一部を無許可で占用し、右占用に係る本件工作物の除却と絡めて右施策の実施を迫ることは、現行法秩序のもとでは是認される根拠はなく、又仮に同原告らの右要求が更生相談所等における要保護者取扱いの運用の変更を求めるだけであつたとしても、手段の相当性を欠くといわざるをえず、いずれにしても同原告らの諸要求に従うことをもつて、本件工作物除却義務等の履行を確保する他の手段ということはとうていできない。よつて原告らの右主張は失当である。他に市長が本件工作物除却、原状回復義務の履行を確保するには代執行による以外に手段はないと判断したことが違法であると認めるべき証拠はない。
(2) 市長が右義務の不履行を放置することが著しく公益に反すると認めたことにつき、裁量権の逸脱ないし濫用の違法があつたかどうかについて判断すると、前記のような問題の深刻性に鑑みそれが特に集中する冬期において、これに対して適切な措置を講じなければならない緊急性は認められるところ、原告稲垣ら越冬実及びその協力者達の前記越冬活動は、右問題についての被告ら行政側の施策の足らざるところを補うものであつて、前記認定のその実績に照らしても、右越冬活動に対する評価を惜しむべきではない。しかしながら一方においては、右活動のために本件公園を占用することは、その限度で本件公園の設置目的たる一般市民児童の利用を妨げることになるのは否定できず、更にそれに止らず、前記認定のとおり本件公園内での越冬活動により付近住民に危険感を与える等少なからぬ被害を及ぼしているのであつて、このような中で、市長が都市公園法一条一項に基づく命令を発し、右命令による前記各義務の不履行を放置することは著しく公益に反すると認めて昭和五二年二月一日前記の戒告をして本件代執行に着手したことをもつて、裁量権の逸脱ないし濫用とまでいうことはできない。そして前記のとおり市長は越冬実に対して同月一八日から同月二八日までの間に行う旨を通知した代執行の実施を自制した後、改めて三月三一日付で代執行令書を発したうえ、四月七日本件代執行を実行したのであるが、この頃は季節的に見ても前記の緊急性は著しく減少したものと認めざるをえず、且つ越冬実及びその協力者らの越冬活動も終了した後であり、それ以後の同原告ら越冬実の前記認定のような本件公園の占用目的から見れば、右占用は、一般市民、児童の福祉の増進に資することにある本件公園の設置目的及び都市公園法の趣旨に反するというのほかはない。
なお被告が本件代執行後、本件公園を長期間閉鎖して一般の利用に供しなかつたことは前記のとおりであるが、代執行後に本件公園を他の恣意的な目的のために使用したというのならば格別、前記認定のとおり、右閉鎖は越冬実の再度の占拠を予防するにあつたところ、このことは本件公園の設置目的から見た場合、前記認定の諸般の事情に照らすと、長期的な視点から右設置目的の確保をはかる措置として是認することができるのであり、従つて右長期間の閉鎖の事実をもつて、遡つて本件代執行が恣意的目的でなされたと認めるべき根拠とすることはできず、他に本件代執行につき本件公園の設置目的及び都市公園法の趣旨を逸脱した目的があつたと認めることのできる証拠はない。
以上右代執行令書の発付と本件代執行の実行につき、市長に裁量権の逸脱ないし濫用があつたとすることはできない。
(乾達彦 国枝和彦 市川正已)